福岡を拠点に活動するビートメイカー Joint Beauty。静かな佇まいとは裏腹に、豊かな感性とユニークな視点で多様な音を紡ぐ彼の人物像を「直感」をテーマとした今回のイベントを機に掘り下げてみた。
ー まずは、Joint Beautyさんの人となりからお伺いさせてください。
Joint Beauty(以下JB):Joint Beautyです。ビートメイカーとしてビートを作っています。現在は福岡に拠点を置き、客演のアーティストとともに楽曲制作を行っています。
ー 音楽に関わるようになったきっかけは何ですか?
JB:原点に立ち返ると高校時代ですね。当時「高校生ラップ選手権」が流行っていて、同級生たちがラップをしていたんですが、自分はラップはできないなと感じていて、みんながラップしている中で、僕はiPodでビートを流したり、YouTubeでフリーのビートを探したりして。そういうことから音楽への興味が湧いてきました。もともとピアノを習っていたこともあって「何か音楽に関わることをしたい」と自然に思うようになりました。
ー じゃあそういう流れで、音楽の道を志したんですね。
JB:いちばん初めはそうでしたね。転機になったのは唾奇さんの『道-TAO-』という曲に出会ったこと。「なんだこのトラックは!?」と衝撃を受けて、ビートメイカーそのものに興味を持ちました。その後、Aru-2さん、Lidlyさん、Matatabiさんといった日本のビートメイカーの作品にも触れるようになって。さらに大学時代にイギリスへ行ったんですが、ホストファミリーがビート制作をしていて、そのときに海外のビートメイカーの知識も入れて、その方から機材も譲ってもらって、帰ってきてから本格的に制作を始めました。
ー それはラッキーな出会いでしたね。
JB:そうですね。今も制作で使っている「Cubase」も、大学の同級生が「もう使わないから」と譲ってくれたもので。オーディオインターフェースなども含めて、結構もらったものでやっている感じです。
ー Joint Beautyさんの音楽は、ジャンルの枠を超えていて自由度がとても高い印象ですが、そのスタイルはどこから来ているんでしょうか?
JB:基本的にはヒップホップのビートをベースにはしているんですが、昔からアイドルとかアニメのカルチャーも自分なりに深く掘ってきたつもりでもあって、ビートメイカー、作曲家として、ジャンルに幅を狭めちゃうのはもったいないなって思います。いろいろチャレンジして作ったものが、どんどん派生している感じですね。ひとつのジャンルにこだわらずに作っていきたいなという気持ちはあります。
ー 一緒にやっているアーティストを見ていても、型にはまっていないというか、とてもユニークな人選ですね。選ぶ視点みたいなのは何かあるんですか?
JB:単純に僕が会いたい人とか、一緒にやりたい人って感じです。ヒップホップのビートメイカーだと、「ああ、こういう人とやるんだろうな」みたいな、想像できちゃうイメージがありますよね。そういう感じは嫌だなという気持ちがあって。僕がいいなと思った人で、自分の中に軸がある人とやってみたくて、いろいろな人にお声がけしています。
ー なるほど。それは人が先にある感じですか? 曲が先にある感じですか?
JB:まずトラックが先にあって、そこからイメージを膨らませていきます。いろんなシチュエーションで…例えばクルマの中とか、散歩しながら自分のビートを聴いたりして、「このトラックだったら、この人がいいんじゃないか」というアイデアが出たら、自分でアプローチするみたいな感じですね。

ひとつのことをずっとやるのが苦手。だからいろんなジャンルを開拓したい。
ー 曲を作るときに自分なりのルールとか、大事にしていることって何かありますか?
JB:何ですかね。曲を作るときのルール…何かあるかな? まあ無いと言ったら無いんですけど、キックを太くするとか、スネアの抜けを良くするとか。そういう技術的なことしかないかな。キックとスネアは自分の好みに合った形で設計するとか、そんな感じです。明確なルールみたいなものはないんですけど、なんとなくそのあたりは自分に課しているというか、意識している部分かもしれないですね。
ー これまであまり馴染みがなかったジャンルの音楽で、最近になって聴くようになったものって何かありますか? それと、そういった音楽はどこで出会ったり掘ったりしてるんでしょうか? JB:それこそK-POPとか、昔は全然興味なかったけど最近は聴くようになりましたし、グライムとかガラージュみたいな、イギリスの音楽文化にも少しずつ触れてみたりしています。あとはサウジアラビアとかアラビア系の音楽も聴くようになりました。いわゆる民族音楽って言うと少し語弊があるかもしれないけど、中東には独自の音楽文化があって、言語は全然わからないんですけどね。でも、そういうものもいろいろ掘ってインプットしてます。聴くのは基本的にSpotifyで、あとはYouTubeで人に教えてもらったものをきっかけに、自分でさらに掘っていくっていう感じです。

ー 曲を聴くと、「あ、これはあのビートメイカーの曲だな?」ってわかることが多いじゃないですか。でもJoint Beautyさんの曲をいろいろ聴いてみたんですが、そういった一貫性みたいなのがあまり感じられなかったんですよね。これは意図的にやっている感覚ですか?
JB:僕は、一貫性を持ってやっている人のことは、めちゃくちゃ尊敬してるんです。例えば、Olive Oilさんは聴いたらすぐわかるし、Aru-2さんも、Sweet Williamさんも、聴いたら「あ、あの人の曲だ!」ってわかる。でも僕は性格的にひとつのことをずっとやるのが苦手というか、飽きっぽい性格でもあるので、いろんなことに手を出したくなっちゃうんですよね。だからいろんなジャンルを自分なりに開拓してやっている感じです。
ー ちなみに、ビートメイカーのJunes Kさんとは特に仲が良いと伺いました。どんな関係性なんでしょうか?
JB:Junes Kさんは、ちょっと変わった音楽が好きな方で、僕にとっては数少ない音楽友達のひとりですね。普段からDMで「この曲やばくない?」って送り合ったり、お互いのビートを共有し合ったりしてます。年上なんですけどフランクに話せるし、僕みたいにあまり人付き合いが得意じゃないタイプにとっては、すごく貴重な存在ですね。
ー そもそもJunes Kさんとはどこで知り合ったんですか? JB:お互いに「OILWORKS」で作品を出しているつながりで、Olive Oilさんから紹介されました。そこから「家近いやん!」みたいな共通の話題で仲良くなって、二人で飲みに行ったり、Olive Oilさん含めて3人で会うこともあります。近所にミニストップがあるんですけど、たまに「タバコ吸いません?」って誘って、店の前で話し込んだりしてますね。

ー 曲を作っていて、楽しい瞬間とか、「おっ!」って思う瞬間ってどんなときですか?
JB:う~ん。楽しいと思う瞬間か。基本は苦しいんですけど(笑)。なんだろうな…。楽しいと思える瞬間って、やっぱりアウトプットするときがいちばん楽しいですね。作ってるときは、あまり「楽しい」って感覚はなくて、ただ頭の中にあるものを落とし込んでいく作業で、それが完成して、アウトプットとして自分のケータイで聴いたり、クルマの中で流したりして、「うわ~、いいのができたな~」って感じられる瞬間が、いちばん楽しいですね。
ー 何かのインタビューで読んだんですが、普段からあまり詰め込んで作業はしないんですか?
JB:そうですね。例えば電車に乗っているときにふと流れてくるプレイリストの曲とか、街を歩いていて聴こえてくる音楽とか、そういうものから影響を受けて、「こういうの作りたいな」ってインスピレーションが湧いて、それを曲に落とし込む感じなんです。決め打ちで「こういうものを作るぞ」って思って、この場所に座って作り始めるというよりは、インスピレーションが降りてくるまでは基本的に何もしない。他のビートメイカーさんは、とりあえず座って作業するって方が多いと思うんですけど、僕は明確にビジョンが見えてからじゃないとやり出さないことが多いですね。
ー 今回の渋谷スクランブルスクエアのイベントテーマが「直感」なんですが、Joint Beautyさんは「直感」と聞いて、最初にパッと思い浮かぶのはどんなことですか?
JB:いやもう、「耳が喜ぶかどうか」に尽きると思うんですよね。やっぱり人それぞれ、自分のスタイルに合った音楽ってあると思うんで、耳なじみのいい、その人にとってしっくりくる音っていうのが「直感」じゃないですかね。あと、僕は街を歩いているときとか、夜にバーで飲んでいるときなんかに流れてくる音楽をよくShazamするんですけど、「これいいな」と思ったらどんどんプレイリストに追加したりして。そういうのがまさに直感的な瞬間なんじゃないかなって思います。日常生活の中に落ちてるものかもしれないですね。
ー 今回、「直感」というテーマに紐づくプレイリストをたくさん作ってくれていますが、どういう感じで選曲したんでしょうか。
JB:プレイリストのテーマは相談しながら決めていったんですけど、例えば、「インスパイア」は、聴いてアイデアが浮かんでくるような音楽。「ブライト」は、聴いたときに気持ちが明るくなるような曲を選んでいます。カフェみたいな落ち着いた空間をイメージして、「チル」っぽいテーマでは、ゆったりとした曲を選んだりもしました。全部で5つくらいテーマを決めて、そこから自分の好きな曲をバーッとピックアップしていった感じですね。
ー 今回のイベントに参加する他のアーティストの人選もJoint Beautyさんがされたそうですね。 JB:そうですね。今回は会場が渋谷スクランブルスクエアということもあって、イベントに来る人だけじゃなく、たとえば通りがかりで漏れ聞こえてくる音を聴いて、「なんかいいな」って思って入ってくるようなシチュエーションも想定してます。だからこそ、普段からいい音楽を作っている方や、現場でしっかり音を届けている方をキャスティングの視点に置いて、今回のメンバーを選ばせていただきました。

福岡は落ち着ける場所。制作のサイクルやバランスにちょうどいい。
ー 福岡に拠点を置いて制作されていますが、その理由や意味、もうちょっと簡単に言うと「福岡にいる良さ」って何かありますか?
JB:僕は長崎・九州の生まれで、これまでずっと九州で育ってきたんです。だから自然と九州にいることが多くて、その中でも福岡は都市の規模としても九州でいちばん大きいですし、生活や活動の拠点としてすごくバランスがいいなあと感じています。音楽で関わる相手は東京の方が多いんですけど、福岡って空港が市街地から近くてアクセスもいいので、東京に住むのとそこまで大きな差はないんじゃないかなと思っていて、もちろん東京の方がチャンスや動きは多いと思うんですが、僕自身は“落ち着ける場所”を重視しています。福岡の都市感とか人の多さとか、そのバランスがすごく自分に合っていて、本当に居心地がいい場所なんです。
ー 普段の生活についても聞かせてください。平日と休日はどんな過ごし方をされてますか?
JB:平日は基本的に仕事をしていて、そこが僕にとって一番インスピレーションの源というか、アイデアのきっかけになってます。たとえば、電車の行き帰りにイヤホンで音楽を聴きながら、「こういう曲を作りたいな」って思ったり。そういうアイデアを吸収する場として、平日をアイデアの醸成に使っている感じですね。で、土日にそれを形にしてアウトプットする、という流れです。なんというか、僕はあまり詰め込みたくないタイプなので、インスピレーションを得てから形にするという、そのサイクルが自分には合っていると思います。
ー では、休日は結構スタジオにこもって作業される感じですか?
JB:そうですね。ただ、「こもっている」と言っても、形にするのはけっこう早い方だと思います。長くても3時間以上かかることはあまりなくて、頭の中にあるものをガーッと鍵盤などを使って一気に形にします。「よし、できたな」と思ったら外に出て、実際に聴いてみたり、アウトプットしたものを一度冷静に聴き直す時間もちゃんと取るようにしています。
ー 今回のイベントを楽しみにしている方々へメッセージ、そしてご自身の意気込みもあわせてお願いします。 JB:8月は暑いので、涼しい場所でゆっくり音楽を楽しんでください(笑)。意気込みですか……難しいな(笑)。実は僕、こうやって福岡にいる人間なので、渋谷スクランブルスクエアに行くのは今回が初めてなんです。だから僕自身も、あの空間自体をまずは楽しみたいと思ってますし、普段あの場所を使っている皆さんが、どういう空気感で過ごしているのか、そういったことも意識しながら、イベントの選曲や空気作りもしていきたいと思っています。すごく楽しみです。

日本のトラックメイカー/音楽プロデューサー。情緒あふれるメロディセンスと高品質なトラックメイキングで、ジャンルの枠を超えた独自の音楽世界を築くアーティスト。異色のコラボレーションから新たな魅力を引き出す唯一無二のプロデュース能力が光る。 2020年、Olive Oil率いる名門レーベルOILWORKSより、国内外の豪華ゲストを迎えたアルバム『AMATSUKA』をリリース。2022年にはTrigger Recordsから、tofubeats、FARMHOUSE(SUSHIBOYS)、田我流、ZIN、仮谷せいら、maco marets、BUPPON、MAHINA APPLEに加え、DJ Jazzy Jeffの実子であるUhmeerやカナダのMoka Onlyといった海外勢も参加したアルバム『nell』を発表。ヒップホップを軸にしながらも、多彩な音楽性とパーソナルな世界観を丁寧に織り込んだ作品として高い評価を得る。 さらに、SUSHIBOYS、藤井隆、花澤香菜、Mori Calliope、ピーナッツくん、柳美舞(ばってん少女隊)など、ジャンルやカルチャーの垣根を超えた多彩なアーティストとのコラボレーションが話題を呼んだEP『YOLO Vol.1』をリリース。それぞれの個性を最大限に引き出し、新たな魅力を提示するスタイルで注目を集めている。 話題の『YOLO Vol.1』は12インチLPとしてのリリースも決定。TV・CMへの楽曲提供など、活動の場をさらに広げている。
Instagram: https://www.instagram.com/joint_beauty/
Youtube: https://www.youtube.com/@jointbeauty
Text_Masaki Hirano
Photos_Keishi Sawahira
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